相続放棄の却下率とそのパターン

文責:所長 弁護士 白方 太郎

最終更新日:2023年10月18日

1 相続放棄の却下率

 令和4年度司法統計によりますと、相続放棄の既済事件の総数は25万8933件、そのうち却下された数は400件となっています。

 この数値をもとに算定された却下率は、約0.15%であり、却下される率はとても低いといえます。

 以下、相続放棄の却下率がとても低い理由と、相続放棄の申述が却下されるパターンについて説明します。

2 相続放棄の却下率がとても低い理由

 相続放棄の却下率がとても低いのは、家庭裁判所において、明らかに却下すべき理由がある場合でなければ、相続放棄の申述を一旦は受理するという運用がなされているためであると考えられます。

 東京高決平成22年8月10日においては、次のように述べられています。

 「相続放棄の申述がされた場合、相続放棄の要件の有無につき入念な審理をすることは予定されておらず、受理がされても相続放棄が実体要件を備えていることが確定されるものではないのに対し、却下されると相続放棄が民法938条の要件を欠き、相続放棄したことを主張できなくなることにかんがみれば、家庭裁判所は、却下すべきことが明らかな場合以外は、相続放棄の申述を受理すべきであると解される」

3 相続放棄の申述が却下されるパターン

 2で説明したことの裏返しとして、却下すべきことが明らかな場合には、相続放棄の申述が却下されると考えられます。

 具体的には、次の3つのパターンが考えられます。

 1つめは、熟慮期間を過ぎている場合です。

 相続放棄の期限は、自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内とされています(この3か月間のことを熟慮期間といいます)。

 一般的に、家庭裁判所は、被相続人が死亡した(相続が開始した)日に相続の開始を知ると考えているため、被相続人が死亡した日から3か月以上経過した段階で相続放棄の申述をする場合には、被相続人が死亡したことを知った日からは3か月経過していないことを、疎明資料とともに説明する必要があります。

 被相続人が死亡した日から3か月以上経過しているうえで、このような説明ができない場合、却下される可能性があります。

 2つめは、法定単純承認事由に該当する行為がある場合です。

 代表的なものとして、被相続人の預貯金を引き出して自分のために費消してしまったなど、相続財産を使ってしまったというケースが挙げられます。

 また、被相続人の自動車を売却してしたり、建物を解体してしまうという行為も、法定単純承認事由に該当する行為に該当する可能性があります。

 このような行為があると、相続放棄が却下される可能性があります。

 

 相続放棄の申述書を提出した後、しばらくすると家庭裁判所から、相続放棄に関する質問が記載された「照会書」が送付されます。

 照会書には、「相続財産を使いましたか?」という内容の質問が記載されています。

 これに「はい」という趣旨で回答してしまうと、相続放棄が認められなくなるおそれがあるので注意が必要です。

 3つめは、相続放棄の申述の際に家庭裁判所に提出する書類に不備がある場合です。

 不備があっても、通常であれば直ちに却下されることはなく、まず家庭裁判所から補正を求められます。

 補正の指示に応じない場合には、相続放棄の申述が却下される可能性があります。

4 家庭裁判所から送付される質問状への対応に不備がある場合

 相続放棄の申述をすると、申述人に対し、家庭裁判所から質問状(照会書という名称のこともあります)が送られてくることがあります。

 この質問状は、相続放棄の申述がなりすましや強要によるものでないか、および法定単純承認事由に該当する行為がないかを確認するためのものであると考えられます。

 そして、送られてきた照会書への回答を返送しない場合や、回答内容と申述書の内容に食い違いがある場合にも、相続放棄の申述が却下されるおそれがあります。

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